軌道法

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軌道法
通称・略称 なし
法令番号 大正10年法律第76号
効力 現行法
種類 交通法
主な内容 軌道事業について
関連法令 鉄道事業法
条文リンク 総務省法令データ提供システム

軌道法きどうほう、大正10年4月14日法律第76号)は、一般公衆(公共)の運輸事業を目的とする道路に敷設される鉄道に適用される法律。軌道条例に代わって制定された。一般公衆用ではなく道路に敷設される鉄道はすべて国土交通省令による(第1条第2項)。元来は主として路面電車を対象としてきたが、近年ではモノレール新交通システム等に適用例がある。また大阪市営地下鉄の大半も軌道法が適用されている。最近の改正は、2000年平成12年)5月31日

本法を解説する上で、一般的な鉄道用語とは異なる部分があるので、次の用語を参照。

用語

軌道法では、道路に敷設された部分を「併用軌道」、道路以外の専用敷地に敷設された部分を「新設軌道」(しんせつきどう)、本法第1条第2項により敷設された鉄道を「専用軌道」という。

鉄道事業法上の鉄道事業者に相当するものを「軌道会社」又は「軌道経営者」と呼称する。

概説

第1条、第2条で軌道法の適用される鉄道の範囲について規定している。それによれば、軌道とは原則として道路に敷設される鉄道であるとされ、そのうち一般公衆(公共)の運輸営業を目的とする場合に軌道法が適用されるとしている。なお、第1条第2項の一般交通に用せざる軌道とは事業者が事業者自身の為に輸送をする軌道、すなわち、専用軌道のことであり、専用軌道規則が適用される。(詳しくは「専用軌道」を参照)


第3条では一般公衆の運輸を営むことを目的とする軌道事業は特許を受けなければならないとされている。鉄道事業法による「鉄道」事業については、「特許」ではなく「許可」である(後述)が、実際上はほぼ同一のものである。


第4条で、軌道事業に要する道路の占用は特許された時点で道路管理者の許可又は承認を受けたものとみなされるとされている。しかし実際には、軌道の特許に際し軌道を敷設しようとする道路の道路管理者の意見が確認されるので、道路管理者の意向を無視して特許されるわけではない。これは第6条の軌道敷設工事認可申請についても同じである。また、道路の占有料に関する政令は現在に至るまで制定されていないので、無料のままである。しかし、併用軌道では第12条で規定される範囲について道路の維持、修繕を負担することとなっており、これが実際上の占有料となる。


第5条から第27条は軌道事業の実施、廃止に当たっての手続事項、事業者履行事項および監督事項が規定されている。軌道の敷設、竣功についてはそれぞれ第5条、第7条で期限内に完了させることが定められており、第23条で期限内に工事施行認可申請、竣功ができなかった場合は特許が失効するとされている。ただし、この期限についてはやむを得ざる事情のある時は延期が認可されることとなっている。なお、軌道の建設、営業開始にあたっての手続については軌道法施行令に、そのとき提出が必要となる書類およびその記載内容については軌道法施行規則に詳細が決められている。また、譲渡等における提出書類についても軌道法施行規則に定められている。一方、軌道事業に当たっての技術的適合の基準は線路、車両、保安に関しては軌道建設規程、運転に関しては軌道運転規則にそれぞれ定められている。一方、運輸営業に当たっての規則(JR各社の旅客営業規則に相当する)に関しては軌道運輸規程に定めがある。一方、軌道事業中運輸事業に携わる人員に関する規定として軌道係員規程があるが、鉄道係員職制を準用するとし、他に定めてあるのは制服の着用義務だけである。

併用軌道における道路の維持、補修に関しての分担は第12条で規定され、軌条間とその両側61cmを分担するものとされている。

第9条に定めのある、道路管理者が道路の新設、改築に必要と認めれば、軌道経営者の専用軌道敷地を無償提供させることができるとされることについては、日本国憲法第29条第3項に違反している可能性もあるが、それにもかかわらずこの条文は削除されていない(もちろん、この条文を適用して事業を実施することは、訴訟の提起、違憲判決等のリスクを考慮すれば実質的には不可能といえる。)。

※日本国憲法第29条第3項:私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。


なお軌道係員規程の罰則条項については、日本国憲法第73条第6号に反するため事実上失効している。詳細は鉄道営業法を参照のこと。

※日本国憲法第73条:六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。


第28条から第30条は罰則規定である。

第31条は軌道法を適用する軌道に準ずるものを規定しており、昭和二十二年運輸、内務省令第二号が該当する政令であり無軌条電車が該当するものとして定められている。


下位法令

「鉄道」との違い

鉄道の基本となる部分では、鉄道事業法による鉄道と軌道法による軌道との間に相違はない。しかしながら、専用の通行空間を持つ鉄道と、一般道路交通と通行空間を共用する軌道との間にはかなりの相違があるのも事実である。但し、現在多く見られるようになった専用の通行空間を持つ軌道については鉄道との相違がほとんど無い場合が多い。それはともおき、具体的には以下のような違いがある。

許認可

鉄道事業は許可であり、廃止は届出であるが、軌道事業は特許であり、廃止は許可である。

敷設

軌道法が「軌道ハ、特別ノ事由アル場合ヲ除クノ他之ヲ道路ニ敷設スヘシ」(第2条)と規定し、鉄道事業法が鉄道の道路への敷設を原則として禁じている(同法第61条)ことから、鉄道と軌道とは、道路への敷設の可否により区別されているはずである。

ところが、軌道法第2条但書、鉄道事業法第61条但書により、国土交通大臣の許可を受ければ軌道は道路以外に、鉄道は道路に敷設が可能であることから、軌道では大部分が新設軌道である東京都交通局都電荒川線)や京福電鉄嵐山本線、全線新設軌道である大阪市営地下鉄東京急行電鉄世田谷線)がある一方で、鉄道ではほぼ全線が道路の地下に敷設されている東京地下鉄各線や、一部に(江ノ島~腰越)道路併用区間を有する江ノ島電鉄とが存在している。このように現在では道路への敷設の可否では、その適用区分は必ずしも明確ではなくっている。

また関西圏における南海電気鉄道以外の大手私鉄の多くの路線、それに能勢電鉄は軌道法準拠で開業しており、その多くは1970年代後半まで軌道線とされていた。その他、名古屋鉄道豊川線は建設の歴史的経緯から今でも軌道法準拠であるが、実態としては完全に他路線と同規格の鉄道である。

現在においては、道路に敷設するか否かではなく、鉄道建設に際しもっとも費用のかかるインフラストラクチャ部分の資金調達をどうするかで軌道と鉄道の申請の区分がなされることが多い。例えば1970年代以降のいわゆる都市モノレール新交通システム(AGT)の建設に際して道路整備とセットで事業を実施することにより、潤沢な道路関係の補助金を利用して鉄道のインフラストラクチャ部分を整備することが行われている。この場合、当然のことだが道路計画に含まれない区間は鉄道として建設される。これがモノレールや新交通で鉄道と軌道がコマ切れに存在する理由となっている。

一方、そのほとんどが道路下に敷設される地下鉄で鉄道事業法(旧地方鉄道法)事業が多いのは、計画が1975年(昭和50年)以前である場合が多く、都市モノレールで使われた資金スキームが整備されていなかったこと、鉄道事業としての地下鉄建設に補助制度があることが、鉄道事業が多い要因である。

大阪市の事例については、上記とは若干事情が異なり、現在ほど道路財源が潤沢でないなか、大阪市が道路整備を行うと同時に地下鉄を建設することで、一般財源からの補助が可能となるからである。当時は、現在では比較にならないほど鉄道事業からの収益性が高いためこのような処置が取られたものである。大阪市においては、地下鉄事業が開始される前の路面電車においても同様の電車収益金による道路の整備が行われていた。

なお、「駅」は軌道法上では「停留場」と表される。

運行

軌道運輸規程では速度計の設置が義務ではなく、またブレーキの規定も極端な話が手ブレーキ車両ですらよいことになっている。2006年6月に起きた都電荒川線の追突事故では軌道法による安全に関する規定が大きな議論を呼んだ。

沿革

日本において鉄道と軌道が法的に別個に扱われるようになった歴史は古く、軌道法の前身法である軌道条例の発布よりも早く、1874年明治7年)まで遡ることができる。1873年(明治6年)東京の芝金杉橋-上野間に馬車鉄道の計画が提出された。この馬車鉄道は開業することはなかったが、この計画に対し1874年(明治7年)に「馬車轍路規則」が定められ、これが日本における最古の軌道に関する適用規則である。この後、軌道の出願は1880年(明治13年)東京市街馬車鉄道(東京馬車鉄道)の出願に至るまでなく、法整備は行われない状態であった。本出願に対し、政府ならびに東京府は個別に対応することとし、東京府は「馬車鉄路築造并営業ヲ認許スルニ付命令書」で軌道の監督を実施する。

1887年(明治20年)頃には馬車鉄道の出願が増えてきたこと、また、軌道に関する命令書の作成は各地方庁(府県庁)で行われていたため、地域毎に取り扱い等に差が出ることなどから法整備を実施することとし、1890年(明治23年)軌道条例を発布する。経緯から分かるように、軌道条例は馬車鉄道への適用を主眼として制定されており、かつ、命令書により実質的な軌道監督をするという形式で、軌道条例自体はわずか3条からなる法律であった。また、地方庁が手続事務を行っていることから明らかなように内務省が軌道の監督官庁となっている。黎明期の電気鉄道は、当時の鉄道監督法が私設鉄道条例であり都市内、都市近郊の鉄道に適用するのは不適切であることから、軌道条例で特許、敷設されている。軌道条例はこれらの実態に合わせ二度改正されているが、最終状態でも5条からなるものでしかなかった。

軌道法への改正は、軌道条例では付帯訓令により定められていた事項を法律へ反映したものである。よって、軌道法の内容は本質的には従前の軌道条例で行われていた監督内容と変わりがない。なお、軌道の監督については1908年(明治41年)度より内閣鉄道院との共轄となっており、この体制は両監督官庁の変遷にもかかわらず、国土交通省として合併するまで続けられた。 国土交通省の誕生後、ライトレールが大変な脚光を浴びていることもあり、時代に即した内容への改正論議が高まっている。

黎明期の電気鉄道は軌道条例で特許され、低速走行のみが許可されていた。アメリカで普及した、新設軌道による高速鉄道インターアーバンの概念を日本に持ちこもうとした摂津電気鉄道(後の阪神電気鉄道)は軌道条例で特許を得て、当初は一部のみを併用軌道として敷設したことが知られている。京浜急行電鉄京成電鉄京王電鉄京阪電気鉄道熊本電気鉄道などの私鉄も当初は軌道条例または軌道法で特許され、後に併用軌道区間を廃止し、戦後の鉄道行政の簡素化にあわせて鉄道線へと変更した路線である。軽便鉄道法が発布されてから電気鉄道も当初から鉄道として認可を受けて敷設されるようになった。

臨海地区に建設された神戸新交通ゆりかもめニュートラムなどの新交通システムは、旧建設省管轄の道路上に敷設されているか、旧運輸省管轄の港湾施設に属する「港湾道路」に施設されているかによって、区間ごとに軌道と鉄道を区分している。

このいわゆる新交通システムにおいては、軌道特許による建設において旧建設省令などの措置により補助金を交付される場合が多かったこと、また建設に関する許可(特許)を得るための優位性などのいわゆる「方便」として軌道特許による路線開設が行われた事例が多い。

免許資格