リー環

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リー環(りーかん、Lie ring)はリー括弧積(リー・ブラケット)と呼ばれる非結合的な積をもつ代数的構造で、和と括弧積に関して積の結合性を除く(単位的)環の公理を全て満たす(非結合的分配環)。また応用上重要なリー環は単に環であるというだけでなく分配多元環の構造を持ち、リー多元環あるいはリー代数(りーだいすう、Lie algebra) と呼ばれる。リー多元環を簡単にリー環と呼ぶことも多い。体上のリー多元環は括弧積をもつベクトル空間であると述べることもできる。

有限次元リー環は指数写像と呼ばれる一対一対応により、ある有限次元リー群の原点(零元)における接空間として実現される。

定義[編集]

リー(多元)環は次の条件により定義されるあるいは単位的可換環 K 上の代数的構造 A のことである: A には 3 つの演算 +, 括弧積 [·, ·], F の元のスカラー積 · が定義されて以下を満たす。

  1. 和についてアーベル群を成す:
    • 和の交換法則x + y = y + x が、任意の x, yA に対して成り立つ。
    • 和の結合法則x + (y + z) = (x + y) + z が、任意の x, y, zA に対して成り立つ。
    • 零元の存在: x + 0 = x が任意の xA に対して成り立つような 0 が A に存在する。
    • 逆元の存在: 任意の xA に対し、x + (-x) = 0 を満たすような A の元 -x が存在する。
  2. 分配法則: 任意の x, y, zA に対して
    • [x + y, z] = [x, z] + [y, z],
    • [x, y + z] = [x, y] + [x, z].
  3. 和とスカラー積に関して以下を満たす: 任意の α, β ∈ K, x, yA および F の単位元 1F に対して
    • 右分配法則: α(x + y) = αx + αy,
    • 左分配法則: (α + β)x = αx + βx,
    • スカラー積の結合性: (αβ)x = α(βx),
    • 恒等作用: 1K x.
  4. α[a, b] = [αa, b] = [a, αb] が任意の α ∈ Ka, bA に対して成り立つ。
  5. 括弧積の交代性: [x, x] = 0 が任意の xA に対して成り立つ。
  6. ヤコビの等式: [[x, y], z] + [[y, z], x] + [[z, x], y] = 0 が、任意の x, y, zA に対して成り立つ。

狭い意味でのリー環はスカラー乗法に関わる 3, 4 の条件以外を満たすものである。条件 1, 2 はリー環が K 上の分配的環となることを意味し、ヤコビの等式はそれが非結合的であることを示している。条件 1, 3 はリー環がベクトル空間あるいは環上の加群の構造を持つことを意味し、さらに 2, 4 を加えて(単位元を持つ)分配多元環であることを知る。すなわちリー環とは、交代的かつ必ずしも結合的でない積を持つ分配的多元環で、ヤコビの等式を満たすものである。

条件 2 と 4 をあわせて、括弧積は双線型性を持つという。また、条件 5 の交代性は標数が 2 でない体上でのリー環であれば以下の条件

<math>[y,x] = - [x,y]</math>

あるいは

<math>[x,y] + [y,x] = 0</math>

と同値である。この条件も交代性と呼ばれるほか、反対称性あるいは歪対称性 (skew-symmetricity) とも称される。この条件は標数 2 であるときも含めて条件 5 から導かれる。

諸概念[編集]

結合的な積を持つ多元環 U で新たに括弧積を

<math>[X,Y] := XY - YX</math>

によって定めるとリー環を得る。これを U に付随するリー環と呼び、対してもとの結合多元環を包絡環と呼ぶ。リー環 A がはじめに与えられたとき、その包絡環はテンソル代数を用いて普遍的に構成される。リー環 A の加群構造に注目して、A 上のテンソル代数 T(A) を構成し、これを

<math>[X,Y] - X\otimes Y + Y \otimes X \quad(X,Y \in A)</math>

なる形の元全体で生成されるイデアルで割った剰余多元環を U(A) と定めると、A は多元環 U(A) に加群構造を含めて埋め込めて、U(A) は積について

<math>[X,Y] = X\otimes Y - Y \otimes X</math>

なる関係を満たす結合的多元環となる。これをリー環 A普遍包絡環(ふへんほうらくかん、universal enveloping algebra)と呼ぶ。

リー環 A の二元 x, y が [x, y] = 0 を満たすとき、xy可換であるという。任意の二元が可換であるようなリー環を可換リー環あるいは自明なリー環という。どんなベクトル空間 V に対しても、どの二元 v, w の積も [v, w] = 0 となるものとして積を入れると可換リー環を得る。

リー環 A, B に対して、単位元持つ分配多元環としての準同型 f: AB をリー環の準同型と呼ぶ。すなわち、写像 f: ABリー環準同型であるとは、A の任意の元 x, y および、A, B それぞれの単位元 1A, 1B に対して

  1. <math>f(x + y) = f(x) + f(y),</math>
  2. <math>f(\alpha x) = \alpha f(x),</math>
  3. <math>f([x,y]) = [f(x),f(y)],</math>
  4. <math>f(1_A) = 1_B</math>

が満たされることをいう。

リー環 A の部分集合 B で包含写像 BA がリー環の準同型となるとき、BA部分リー環(ぶぶんリーかん、Lie subalgebra)であるという。

リー環の表現[編集]

随伴表現[編集]

ポアンカレ・バーコフ・ヴィットの定理[編集]

アド・岩沢の定理[編集]

体上の有限次元リー環は忠実な有限次元表現を持つ。

可解リー環・冪零リー環[編集]

<math>\mathfrak{g}</math>に対し、<math>[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]</math>は<math>\mathfrak{g}</math>のイデアルになる。

<math>D^1\mathfrak{g}=[\mathfrak{g},\mathfrak{g}],D^i\mathfrak{g}=[D^{i-1}\mathfrak{g},D^{i-1}\mathfrak{g}]</math>

と定義するとき、あるrが存在して<math>D^r\mathfrak{g}=0</math>となるとき、<math>\mathfrak{g}</math>を可解リー環という。

<math>\mathfrak{g}^{(0)}=\mathfrak{g},\mathfrak{g}^{(k)}=[\mathfrak{g},\mathfrak{g}^{(k-1)}]</math>

と定義するとき、あるrが存在して<math>\mathfrak{g}^{(r)}=0</math>となるとき、<math>\mathfrak{g}</math>をべき零リー環という。

半単純リー環[編集]

ジョルダン分解[編集]

半単純リー環の表現論[編集]

カルタン部分環[編集]

レヴィ部分環[編集]

リー環のルート系・ディンキン図形[編集]

関連[編集]

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