朝鮮籍

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朝鮮籍(ちょうせんせき)とは、1910年韓国併合により朝鮮が日本の領土となったことに伴って日本国籍とされていた朝鮮人のうち、朝鮮の独立後も引きつづき日本に居住している朝鮮人について、1947年以降日本の外国人登録制度の対象になったことに伴い登録されることになった便宜上の籍であり、正確には登録法制上の記号である。

朝鮮籍と韓国籍の成立の背景[編集]

韓国併合により日本国籍を付与された旧大韓帝国の臣民については、日本の戸籍とは別に、朝鮮戸籍と称される戸籍が編製され、朝鮮戸籍に登載された者は朝鮮人とすることになった。

日本によるポツダム宣言受諾の結果、それまで朝鮮総督府が管轄していた地域は日本政府の統治下から脱したものの、朝鮮半島は連合国軍の軍政下におかれ、朝鮮人による有効な独立政府が存在したわけではなかったため、朝鮮人は引き続き日本国籍を有した状態にあった。日本国内においては1947年に制定されたポツダム命令の一つである外国人登録令(昭和22年勅令第207号)が施行された。これにより、日本に在住する朝鮮戸籍登載者は、日本国籍を持ちながら国籍等の欄に出身地である「朝鮮」という記載がなされた。

その後、1948年大韓民国(韓国)政府が樹立された際、同政府は、当時日本を統治していたGHQ/SCAPに対し、在日朝鮮人は大韓民国成立により韓国籍を取得したことになるとして、外国人登録上「韓国」又は「大韓民国」の国籍表示を用いるよう要請した。そのような事情等を踏まえ、1950年以降、本人の希望があった場合は、日本における外国人登録上の国籍を韓国又は大韓民国に書き換える措置が採られることになった。当初は単に本人の希望により書換えが行われたが、便宜的すぎるとの批判を受け、1951年には、韓国政府が発行する国籍証明書を提示した場合に書換えをする扱いがされるようになった。

1952年日本国との平和条約(サンフランシスコ講和条約)の発効により日本が朝鮮の独立を正式に認めたことに伴い、朝鮮戸籍登載者はいわゆる平和条約国籍離脱者として正式に日本国籍を喪失した。同条約の発効日に前述の外国人登録令に代わるものとして外国人登録法(昭和27年法律第125号)が公布・施行され、1965年日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約(日韓基本条約)の締結により日本と韓国との国交が結ばれたが、外国人登録の扱いについては同様の取扱いが継続している。つまり、旧朝鮮戸籍登載者については、自ら韓国籍への変更手続きを取らない限り、外国人登録令施行時に設けられた「朝鮮」の地域名がそのまま国籍に準じて表記されたのである。

登録替えの扱いの差異[編集]

朝鮮籍から韓国籍への登録替えの扱いについては、朝鮮籍はあくまでも便宜上のものに過ぎず、本人の出身地を表す以外のものではないとされているのに対し、韓国籍は、韓国政府が発行する国籍証明書の提示に基づくものであり、大韓民国の国籍を示すとされている。そのため、国籍証明書が発行されていれば登録替えは容易である。

これに対し、韓国籍から朝鮮籍への登録替えの扱いについては、国籍の記載を単なる便宜上の籍に戻すものであり、登録替えではなくいわゆる登録事項の訂正であるとの見解が示されている。そのため訂正が認められるのは、国籍証明書の提示等がないため韓国籍の取得が明らかではなかったにもかかわらず事務取扱上のミス等の理由により韓国籍への書換えが行われた場合であるとされている。

現在では、法務省民事局通達第1810号に記載されている条件、すなわち、書換申請者が大韓民国国民登録を行なっていないこと、大韓民国の正式旅券の発給を受けていないこと、申請者本人及び父の日本における在留資格が「協定永住」ではない、という3条件が全て満たされていれば、韓国籍から朝鮮籍への書換は可能である。しかし、現在、日本に在住している韓国籍の在日朝鮮人において、通達に示されている3条件を全て満たしている該当者は少ない為、朝鮮籍への書換は事実上困難となっている。

両登録籍の扱いの差異と実情[編集]

朝鮮籍として外国人登録されている場合でも、韓国籍として登録されている場合でも、日本国内においては、実質的な国籍の問題や国家の承認の問題とは無関係であり、法令上の取扱いを異にしない。そもそも、国籍を取得するか否かは各国の国籍法で定められ他国はそれに干渉することはできず、外国人登録制度上の国籍は各国の国籍法で決定された国籍を反映させるに過ぎない。

しかし、在日韓国・朝鮮人が韓国へ入国する場合などにおいて、韓国政府の入国管理の取扱い上、韓国籍ではなく朝鮮籍であった場合に制限がある、などの事情があり、韓国籍を選択する理由は様々である。一方で従来の外国人登録制度では、現在も日本が国家承認していない朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の国籍による外国人登録は認められていなかった。(2012年7月に制度そのものが廃止された。詳しくは外国人登録制度参照。)

朝鮮籍は北朝鮮の国籍を示すわけではない。しかし個人の意思決定においては、北朝鮮を支持するという表明や、北朝鮮を支持するわけではないが韓国も積極的に支持しないという表明として朝鮮籍を維持する人もいる。その一方で、かつて朝鮮戸籍を編制した大日本帝国の、後継にあたる日本国と自身との関係を尊重する立場から朝鮮籍の記載を残している人も存在するため、当然ながら朝鮮籍がすなわち北朝鮮への支持を示すものでもない。

なお、朝鮮籍の維持/韓国籍の取得をめぐっては、在日韓国・朝鮮人の間で長きに渡ってさまざまな論争が繰り広げられた。1990年代後半では、作家・李恢成の韓国籍取得(在日朝鮮人文学参照)をきっかけにして、朝鮮籍を「北でも南でもない『準統一国籍』」と考える作家・金石範と、同じく朝鮮籍を維持しつづけていたが金大中政権発足により韓国は民主化したとみなして韓国籍を取得した李恢成とが雑誌媒体を通して論争を繰り広げた。

国際私法上の国籍の扱い[編集]

国籍を連結点とする私法的法律問題が在日韓国・朝鮮人に生じた場合、当事者の国籍をどのように決定するかが問題となる。例えば、日本の国際私法では、相続に関する法律関係は被相続人の本国法(国籍を有する国の法律)による(法の適用に関する通則法36条。つまり、例えばフランス人が死亡した際の相続人間の相続分などは、フランスの相続法により定まる。)が、被相続人が日本国籍を有しない在日韓国・朝鮮人の場合、被相続人が韓国籍を有していたとして韓国の相続法を適用するか、北朝鮮国籍を有していたとして北朝鮮の相続法を適用するかが問題となる。

この点については細かな点でいろいろな見解に分かれるが、大きく分けると、通則法38条1項にいう「当事者が二以上の国籍を有する場合」に類似するものとして扱う考え方と、通則法38条3項にいう「当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合」に類似するものとして扱う考え方に分かれる。なお、少数説として、端的に日本が承認している政府の定める法律(韓国法)によるべきとする見解、特殊な事情から国籍を連結点として採用する基礎がないとして住所地法あるいは常居所地法(日本法)によるべきとする見解もないわけではないが、一般的には支持されていない。

実際上の処理としては、上記の問題点に関する検討過程が裁判書に記載されていないことが多く、個々の判決や審判がどのような見解を採用したのか不明な場合が多い。もっとも、韓国籍として外国人登録されている場合は、そのように登録した具体的な事情を考慮せずに、韓国法を適用する場合が多く、朝鮮籍として登録されている場合でも、どちらの国籍に属するか検討するプロセスを経ず、北朝鮮法の解釈に不明な点があるとか、法の内容が明らかであってもそれが日本の社会で受け入れがたい場合もある(例えば、北朝鮮法では不動産は相続財産を構成しないとされている。もっとも、北朝鮮において1995年に成立した対外民事関係法では、不動産の相続については不動産所在地法が準拠法になるとされており、日本所在の不動産の相続に関しては狭義の反致が成立するので日本の相続法が適用されることになった。)などの事情もあり、韓国法を適用する場合が多いとされている。

日本人と朝鮮(韓国)籍の者との結婚[編集]

朝鮮籍と日本人との婚姻において、自動的な国籍の変動(国籍の得喪)はない。一方の配偶者と同じ国籍を取るためには、国籍取得の手続きを取る必要があるが、在日コリアンの配偶者が日本国籍を取ることは先例上可能だが、日本人配偶者が韓国あるいは北朝鮮国籍を取ることは、日本、韓国、北朝鮮の戸籍法や国籍法の関係から日本では事実上難しい。また、日本人と朝鮮(韓国)籍の者との間の子が二重国籍の場合は、22歳までに国籍選択(日本国籍、韓国籍、朝鮮籍)をしなければならない。

関連項目[編集]