自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律

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自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律は、それまで刑法に規定されていた自動車の運転により人を死傷させる行為に対する刑罰の規定を独立させた、日本法律である。略称は自動車運転死傷行為処罰法

概要[編集]

危険運転致死傷罪 も参照

自動車による交通事故の加害者のうち飲酒運転などによるその原因が悪質とされるものに対して厳罰を望む社会的運動の高まりを受けて、刑法に危険運転致死傷罪が規定された。しかし、その構成要件は、運転行為の中でも特に危険性の高いものに限定されていたため、下記のような事例(一例)に対して公判廷における法の適用は困難を伴っていた。

  • 無免許運転を繰り返している場合に、無免許で事故を起こしても危険運転致死傷罪が適用できなかった。(亀岡市登校中児童ら交通事故死事件
  • 飲酒後に起こした事故において、事故後に飲酒するなどにより逃げ得が発生していた。
  • 自動車を運転するには危険な持病を持ちながら、あえて運転して事故を起こした場合に、危険運転致死傷罪が適用できなかった。

これら悪質な運転者が死亡事故を起こしている現状にそぐわないとの意見により、構成要件に修正を加えると共に、刑法から関連規定を分離して独立した法律として、新たに制定されたものである。

なお、刑法規定の時期と異なり、犯罪の主体が道路交通法に規定する自動車原動機付自転車と明確化されている。刑法規定時期の「自動車」については、判例および類推解釈によりオートバイ原動機付自転車が含まれていた。

なお、2014年現在、危険運転致死傷罪に該当する態様で死傷事故を起こした場合には、運転免許の行政処分に関し「特定違反行為による交通事故等」の基準が適用され、致傷では基礎点数45 - 55点・欠格期間5~7年(治療期間による)、致死では62点・欠格期間8年となっており、殺人や傷害の故意をもって自動車等により人を死傷させた場合(運転殺人、運転傷害)と同等の処分となっている。危険運転致死傷罪#運転免許の行政処分も参照。

経緯[編集]

危険運転致死傷罪 も参照

  • 2013年4月12日:閣議決定、第183回国会に法案提出
  • 2013年11月5日:第185回国会衆議院本会議で可決
  • 2013年11月20日:参議院本会議で可決、成立
  • 2013年11月27日:公布
  • 2014年5月20日:法施行

犯罪類型と罰則[編集]

危険運転致死傷罪[編集]

(第二条、第三条) 下記の行為によって人を死傷させた者

  1. アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
  2. アルコール又は薬物の影響により正常な運転に支障が生じる恐れがある状態で自動車を運転する行為であって、結果としてアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥ったもの
  3. その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
  4. その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
  5. 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  6. 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  7. 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
  8. 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転する行為であって、結果としてその病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥ったもの(適用対象となる病気は後述)

諸類型 (新規定)[編集]

旧・刑法第208条の2の規定と比較して構成要件と類型の一部が改正、拡大されている。

酩酊運転致死傷
薬物運転致死傷
第2条第1項。アルコール(飲酒)又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為。刑法の旧規定と同様。
「正常な運転が困難な状態」とは、道路交通法の酒酔い運転罪の規定(同法第117条の2第1号)にいう、「正常な運転ができないおそれがある状態」では足りず、現実に前方注視やハンドル、ブレーキ等の操作が困難な状態であることを指す。
本法律に言う「薬物」については、特定の薬効成分は指定されていない。薬効成分の種類を問わず薬物の影響下で、正常な運転が困難な状態、または正常な運転に支障が生じる恐れがある状態に陥るものすべてが該当する。例えば、一般の市販薬であっても、眠気を誘発する副作用を持つために服用後に自動車の運転を控えるように明記されている抗ヒスタミン系薬剤を含有する風邪薬を服用して、眠気による意識低下により人身事故を起こした場合にも、本法律の各条に触れる場合がある。麻薬及び向精神薬取締法大麻取締法覚せい剤取締法あへん法の薬物四法による規制薬物や、脱法ドラッグ脱法ハーブに類する意識や運動能力に作用する薬物を摂取した場合も同様である。
準酩酊運転致死傷
準薬物運転致死傷
第3条第1項。独立法制定時に新設。アルコール(飲酒)又は薬物の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を認識していながら自動車を運転し、その結果として第2条第1項に規定する状態(アルコール(飲酒)又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態)に陥った場合。
この点で、原因行為において正常な運転が困難となる認識可能性が要求される第2条第1項の規定と差異がある。抽象的危険性を認識していて具体的危険を惹起して、よって結果を惹起した点について二段階の結果的加重犯の構成となっている(この点は次の病気運転致死傷についても同様)[1]
そのため、第2条第1項(従来規定)については「酒酔い運転」程度の酩酊や「薬物等運転」の認識性が標準とされうるが[2]、第3条第1項(新設)においては、「酒気帯び運転」程度の酩酊等であっても、結果的に「正常な運転が困難な状態」(前述)であれば、本罪が成立することになる。
病気運転致死傷
第3条第2項。独立法制定時に新設。予め政令に定める特定の疾患の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を認識していながら自動車を運転し、その結果として特定の疾患の影響により正常な運転が困難な状態)に陥った場合。
準酩酊運転致死傷や準薬物運転致死傷と同様に、抽象的危険性を認識していて具体的危険を惹起して、よって結果を惹起した点について二段階の結果的加重犯の構成となっている。
特定の疾患とは、自動車運転免許証の交付欠格事由を、標準として以下が定められている。
  1. 運転に必要な能力を欠く恐れがある統合失調症
  2. 覚醒時に意識や運動に障害を生じる恐れがあるてんかん
  3. 再発性の失神障害
  4. 運転に必要な能力を欠く恐れがある低血糖症
  5. 運転に必要な能力を欠く恐れがある躁鬱病
  6. 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
上記特定の疾患の影響により、運転前または運転中に発作の前兆症状が出ていたり、症状は出ていないが所定の治療や服薬を怠っていた場合で、事故時に結果的に「正常な運転が困難な状態」(前述)であれば、本罪が成立することになる。なお、病気を原因とした「正常な運転が困難な状態」については、前述のほか、発作のために意識を消失している場合や、病的に極端な興奮状態、顕著な精神活動停止や多動状態、無動状態など、幻覚や妄想に相当影響され,意思伝達や判断に重大な欠陥が認められるような精神症状を発症している場合が含まれる[3]
制御困難運転致死傷
第2条第2項。進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為。刑法の旧規定と同様。
単に速度制限違反であるから成立するものではなく、制限速度をおおむね50km/h以上超えた程度で適用が検討される。また意図的なドリフト走行やスピンターンも対象になりうる。
未熟運転致死傷
第2条第3項。進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為。刑法の旧規定と同様。
単に無免許運転であるだけでは足らず、運転技能を有していない状態を指す。
運転技能を有するが免許が取消・停止・失効になっている状態は含まない。免許を一度も取得していなくとも日常的に事故を起こすことなく無免許運転している場合には運転技能有りとみなされ該当しない。なお、法的に無免許運転である場合には第6条の加重類型が適用されることとなった。
妨害運転致死傷
第2条第4項。人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。刑法の旧規定と同様。
何らかの理由により故意に「人又は車の通行を妨害する」目的で行った場合。実際には、過度の煽り行為や、故意の行為による割り込み幅寄せ・進路変更などが該当しうる。
「重大な交通の危険を生じさせる速度」とは、相手方と接触すれば大きな事故を生ずる速度をいい、20km/h程度でも該当する。
信号無視運転致死傷
第2条第5項。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し(信号無視)、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。刑法の旧規定と同様。
交差交通が青信号であるのに「殊更に」赤信号を無視した場合に適用され、見落とし、誤認などの過失[4]はもとより、ただ信号の変わり際(黄信号→赤信号へと変わる瞬間、全赤時間)などに進んだ場合などは含まれない。
「重大な交通の危険を生じさせる速度」については前述と同様である。
通行禁止道路運転致死傷
第2条第6項。自動車の通行が禁止されている政令に定める道路(道路の一部分を含む)を自動車によって通行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為。独立法制定時に新設。
なお、通行禁止道路の通行は故意が要件であるため、道路標識の見落とし等による場合や、認知症などによる場合は適用されない。
通行禁止道路とは、政令により以下が定められている。
道路標識等であっても、「一定の条件に該当する自動車に対象を限定」するものについては対象外となる。例として、「車両の種類」(大貨等、二輪など)、「最大積載量」、「重量・高さ制限」、「指定方向外進行禁止」など。
ただし「車両の種類」に関しては、自動車に対して「一定の条件に該当する自動車に対象を限定」していない場合は対象となる。例として「軽車両を除く」、「自転車及び歩行者専用」、「自転車専用」など。
また、通行の日付・時間帯のみを条件とする道路標識等についても対象となる。例として「歩行者専用 7~9時」など。通学時間帯等その他理由による歩行者専用道路等規制に故意に違反して自動車で死傷事故を起こすと、危険運転として厳罰に処されうるので要注意である。
  • (二) 道路標識等により、「自動車の通行につき一定の方向にするもの」が禁止されている道路。いわゆる一方通行の規制で、一方通行の逆走が該当する。例として「車両進入禁止」および「一方通行」。
一方通行についても、規制に条件が付されている場合には一と同様になる。例として「大型等」、「二輪を除く」は対象外となり、「一方通行 7~9時」、「軽車両を除く」だけの場合は対象となる。
一般道路の場合には、道路右側部分の逆走は対象外になるが、一般道路の上下分離の場合の逆走は道路標識等が正しく設置されていれば二で対象となる。
  • (四) 安全地帯または「立入り禁止部分」(道路交通法第17条第6項)
「重大な交通の危険を生じさせる速度」については前述と同様である。

発覚免脱罪[編集]

(第四条 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱)

アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をした場合
いわゆる「逃げ得」を防止するため重く処罰する規定である。事故発生までのアルコールや薬物等の摂取の証跡を隠秘する目的で、現実の事故発生後に改めてアルコールや薬物を摂取したり、事故現場から逃走し隠秘したりするなどの行為が該当するが、前述の目的があればそれらに限定されない。なお、逃走した場合には救護義務違反の罪(「罪数論」参照)も成立し、これは発覚免脱罪とは併合罪の関係にある。

過失運転致死傷罪[編集]

(第五条)自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合

刑法の旧規定(第211条の2)に自動車運転過失致死傷罪として規定されていたものである。

無免許運転による加重[編集]

(第六条)その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、刑を加重する。

無免許運転であることと事故(死傷)の間に因果関係は不要である。なお、運転技能を有しない状態で運転する行為については第二条で評価される。

法定刑[編集]

罪状 一般 無免許
危険運転致死罪 準酩酊等運転と病気運転を除く 1年以上の有期(20年以下)懲役 同左(加重なし)
危険運転致傷罪 準酩酊等運転と病気運転を除く 15年以下の懲役 6月以上の有期(20年以下)懲役

(未熟運転の場合は加重なし)

危険運転致死罪 準酩酊等運転と病気運転 15年以下の懲役 6月以上の有期(20年以下)懲役
危険運転致傷罪 準酩酊等運転と病気運転 12年以下の懲役 15年以下の懲役
発覚免脱罪 12年以下の懲役 15年以下の懲役
過失運転致死傷罪 7年以下の懲役もしくは禁錮、
または100万円以下の罰金
10年以下の懲役
  • 「準酩酊等運転」…準酩酊運転および準薬物運転
  • 有期懲役刑の上限は20年である(刑法第12条1項)。ただし、他の罪が併合罪加重として適用される場合や、再犯加重の場合などは、最長で30年の懲役となる(刑法第14条刑法第47条)。

罪数論[編集]

本法律の各罪と、道路交通法違反の各罪(救護義務違反の罪を含む)について評価する。

  • 危険運転致死傷罪と過失運転致死傷罪は法条競合の関係にある。
  • 過失運転致死傷罪と道路交通法違反の罪(酒気帯び運転ほかの交通違反)は併合罪の関係にある。
  • 発覚免脱罪を行ったが結局的に危険運転致死傷罪が成立した場合も、併合罪と評価される可能性がある。
  • 発覚免脱罪と過失運転致死傷罪は併合罪の関係にある。
  • 救護義務違反の罪と他の罪は原則として併合罪の関係にある(ひき逃げ参照。)
  • 無免許運転により本法律の罪が加重された場合、無免許運転罪と加重された本法律の罪とは法条競合(結合犯)の関係にある。

脚注[編集]

  1. 人身事故として結果が出ていない場合には、道路交通法第66条(過労運転等の禁止)により、アルコール(飲酒)又は薬物の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を認識していながら自動車を運転した場合には処罰の対象になる。危険ドラッグ等の薬物については前歴によっては車内に保有していただけで、道路交通法第103条に定める危険性帯有者とみなされ、処罰の対象になることがある。
  2. ただし、道交法に言う「酒酔い運転」程度の酩酊や「薬物等運転」である事が構成要件となっている訳ではない
  3. 人身事故という結果が出ていない場合、道路交通法第66条(過労運転等の禁止)により、過労や疾患の影響により影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を認識していながら自動車を運転した場合には処罰の対象になる
  4. 「殊更に」とあるため、通行禁止道路運転致死傷とは異なり、赤色信号等は見ていたがそれが止まれの意味であると認識していなかった場合(法の不知)には、対象外となる可能性はあるが、そもそも法の不知は進行を制御する技能を有しないことを示唆するため、別途、未熟運転致死傷や無免許運転による加重を検討することとなろう。また、赤色信号等と認識していたが諸条件(矢印信号等や補助標識含む)の誤認により止まるべきではないと誤解した場合(当てはめの錯誤)にも、適用外となる余地はある。なお信号機の見落としについては、一時的に通りかかった道路なら別段、通勤通学など習慣的に通行している道路においては、見落としは認められず、故意が認定される可能性もある。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]