永すぎた春

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永すぎた春』(ながすぎたはる)は、三島由紀夫長編小説。永すぎた婚約期間中の男女の紆余曲折と危機を描いた作品である。1956年(昭和31年)、雑誌『婦人倶楽部』1月号から12月号に連載された。単行本は同年12月25日に大日本雄弁会講談社(現・講談社)より刊行され、ベストセラーとなった。現行版は新潮文庫で刊行されている。翌年1957年(昭和32年)5月28日には、若尾文子川口浩の主演で映画も封切られた。

本作は、『金閣寺』と同時期に平行して書かれた小説だが、『金閣寺』とは趣きが正反対の軽快な明るい青春恋愛小説となっている。主人公のカップルのように、婚約期間の長い恋人の倦怠を指す言葉として、「永すぎた春」という言葉は流行語となった。“January” から“December” までの12ヶ月の章に分かれ、二人の間に起こる大小さまざまな恋の危機が、独特の巧みな逆説ウィットを交えた洒脱なタッチで描かれている[1]

あらすじ[編集]

T大法学部に通うまじめな大学生・宝部郁雄は、学校門脇の古本屋「雪重堂」の娘・木田百子と去年の春に出会い恋仲となり、二人はようやく親の許しを得て今年の1月15日に婚約できた。しかし結婚は、郁雄が来年3月大学を卒業してからという条件であった。二人は接吻だけの関係だったが、お互いの家に気軽に遊びに行き、夫婦のように公認されるようになった。小さな嫉妬や親戚にまつわる両家のいざこざはあったが順調だった。

4月のある日、二人は郁雄の知人の画家・高倉の個展会場で待ち合わせをした。先に来ていた郁雄はそこで、30歳近い美人画家・本城つた子を紹介された。百子が遅いので、郁雄はつた子に誘われ喫茶店に行った。そのとき百子は嫉妬の態度を示さなかったが、その後、不安な百子は結婚前に体を許してもいいと言ったりするようになった。誘惑的なつた子に悩まされていた郁雄は、百子の純潔を守る代わりに、ついに、つた子のアパートへ行くことに決めた。郁雄は年上の学友で妻帯者の宮内にそのことを相談したが、「危なくて見ちゃおれんね、君はエゴイズムで動いているんだが、それを性欲と思いちがえている」と言い、具体的な忠告はなかった。アパートで郁雄がつた子を待っていると、宮内が百子を連れて現われた。そこへ、つた子も加わり、宮内は郁雄に百子とつた子のどっちを選ぶのか対決をせまった。郁雄ははっきりと百子を選んだ。

百子の兄で小説家志望の東一郎がひどい盲腸で入院した。東一郎は附添の美人看護婦・浅香さんと結婚したいと言い出し、郁雄の母・宝部夫人の仲介もあり、当初反対していた木田夫婦も了承した。しかし浅香さんの母・つたは、単なる未亡人の貧しい小間使いではなく、元・花柳界で女中か何かをしていた海千山千の女で、木田家や、宝部家に嫁ぐ百子に対する妬みやひがみの心性を隠していた。また、自分の娘の幸せに対してまで羨望を抱くひねくれた老女だった。百子はつたの陰謀で、郁雄のプレイボーイの友人・吉沢に強姦されそうになった。あやうく逃れた百子だったが、この一件で郁雄の母は、つたと親戚になるのを拒絶し、東一郎と浅香さんが結婚するなら、郁雄と百子の結婚を許さないと、東一郎に言った。

母親・つたの失態のせいで、木田家に来なくなった浅香さんのアパートを東一郎と百子が訪ねた。ちょうど、つたも居て、浅香さんは母親をかばうようなことを言って、自ら東一郎に嫌われるようにした。百子にはそれがわかったが、東一郎は激昂して別れを決め、その足でまっすぐ宝部家に報告しに向かった。百子と郁雄は婚約破棄にならずに済んだ。百子は浅香さんの心情を兄に教えなかったことに自分のエゴイズムをみて、そのことを郁雄に相談した。しかし郁雄は、東一郎は浅香さんが偽りの愛想づかしを言うことを知っていて、別れの行動に移れるようにしたんじゃないか、百子を連れて行ったのもそのためで、自分たちが結婚できるようにしてくれたんだと言った。百子と郁雄は、ありがたく素直に幸福をもらおうと誓い合った。

作品評価・解説[編集]

『永すぎた春』は、三島の純文学路線の作品とは違い、読者を愉しませるために気楽に書かれたものであるが[2]、その中には、三島がかねてから抱いている様々な人間観や人生観が、他の純文学作品におとらずに表現されており、“永すぎた春”という主題そのものが三島らしい洒脱なものとなっている[2]

十返肇恋愛というものについて、「周囲の反対が強ければ強いほど、さかんに燃えあがり、愛人同士の感情は密着して結ばれる」[2]とし、それが、周囲がその愛を理解し祝福してくれると、「敵を失った情熱は、愛そのものを倦怠させてしまう」性質があることを指摘しながら、『永すぎた春』の主人公の郁雄と百子が、誰にも咎められることのない許婚の季節があまりにも永いために、二人の愛に緊迫した激しさが失われていくと解説し[2]、「いわば、これは“幸福”そのものが一種の“不幸”と化しつつある状態で、三島氏らしい狙いである」[2]と述べている。そしてそういった作者・三島の観方を人が“逆説的”と評することについて、「本当は逆説ではなく、きわめて順当な観察である」[2]と解説している。

映画化[編集]

『永すぎた春』(大映) 1957年(昭和32年)5月28日封切。カラー 1時間39分。

スタッフ[編集]

キャスト[編集]

テレビドラマ化[編集]

ラジオドラマ化[編集]

おもな刊行本[編集]

  • 『永すぎた春』(大日本雄弁会講談社、1956年12月25日)
    装幀:初山滋。紙装。フランス装。紺色帯。各章冒頭に挿絵12葉(初山滋)。帯(背)に「大映・映画化」とあり。
  • 『永すぎた春』(大日本雄弁会講談社・ロマン・ブックス、1958年9月10日)
    装幀:初山滋。紙装。各章冒頭に挿絵12葉(初山滋)。
  • 文庫版『永すぎた春』(新潮文庫、1960年12月10日。改版1969年、1988年)
    カバー装幀:脇田和。付録・解説:十返肇
    ※ のちにカバー改装。

脚注[編集]

  1. 「解説」(文庫版『永すぎた春』)(新潮文庫、1960年。改版1988年)
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 十返肇「解説」(文庫版『永すぎた春』)(新潮文庫、1960年。改版1988年)

参考文献[編集]

  • 文庫版『永すぎた春』(付録・解説 十返肇)(新潮文庫、1960年。改版1969年、1988年)
  • 『決定版 三島由紀夫全集第42巻・年譜・書誌』(新潮社、2005年)
  • 『決定版 三島由紀夫全集第6巻・長編6』(新潮社、2001年)
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