LGBT

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LGBT(エル・ジー・ビー・ティー)または GLBT(ジー・エル・ビー・ティー)とは、女性同性愛者レスビアン、lesbian)、男性同性愛者(ゲイ、gay)、両性愛者(バイセクシュアル、bisexuality)、そしてトランスジェンダー (transgender) の人々をまとめて呼称する頭字語である。この言葉は、頭字語である LGB にトランスジェンダーの頭文字 T を付加して作られている。性的少数者と同一視されることも多いが、LGBT の方が、より限定的な概念である。

LGBT という言葉・概念に対しては異論もあり、現在でもなお議論が続いているが、北アメリカにおいてはクィア (queer) やレスバイゲイ (lesbigay) などという言葉もあり、これらとの比較においては、より一般に受け入れられている言葉である。また、英語の言葉としては、ホモセクシュアルや単なるゲイよりも分かりやすい言葉だとされている。アメリカ合衆国では GLBT という頭字語も広く用いられており、これはオーストラリアでも使われる。しかし、それ以外の地域では一般的ではない。

構成用語の意味

LGBT は四つの用語の頭文字から作られた言葉であり、それぞれの用語は、特定の集団のメンバーや、サブカルチャー共同体に所属している人々を指すのに使用される。このようなサブカルチャー的共同体としては、性に関する人権を唱導する者たちや、芸術家文学者の集団・共同体などが挙げられる。

レスビアン

LGBT の頭字語において使用されるレスビアン (L) とは、性的指向が専ら同性である女性へと向かっている女性を表す。つまり女性同性愛者である。

ゲイ

この頭字語において使用されるゲイ (G) とは、性的指向が専ら同性である男性へと向かっている男性を表す。つまり、男性同性愛者である。

バイセクシュアル

バイセクシュアル(B)とは、複数のジェンダーに引き寄せられ、魅惑される人々を表す。つまり、両性愛者である。バイセクシュアリティは伝統的に「男性・女性双方に魅惑を感じる性的指向」として定義されているが、通常は汎性愛(パンセクシュアリティ、pansexuality)を包含する形で使用されている。汎性愛とは、相手のジェンダーが何であるかが殆ど或いは全く関係しない魅惑・性的指向である。つまり、男性、女性、またはトランスジェンダーなど、多様なジェンダー・アイデンティティ(性自認)の人に魅惑を感じることを云う。バイセクシュアリティは、無性愛、同性愛、異性愛などの性的指向の間にあって、いずれをも包含するような指向である。

トランスジェンダー

この頭字語において使用されるトランスジェンダー (T) とは、様々な個人・その振る舞いについて、とりあえず何でも示す包括用語として一般に使用されている。性役割(ジェンダー・ロール)の全面的または部分的な反転に特徴がある集団の人々を指しており、また、ホルモン療法や様々な度合いの外科的手術による変更を含む、身体的な性再割り当て治療 (physical sexual reassignment therapies) が必要な人々も当然に入る。

一般的な定義は、“通常、誕生時において割り当てられたジェンダーに対し、それは間違いであるとか、自分たち自身の本来のありようとは別だとして違和感を覚える人々”である。この定義には、性転換症(トランスセクシュアル、transsexual)、服飾倒錯者(トランスヴェスタイト / 異性装 / クロス・ドレシング)、そして時にジェンダークィア (genderqueer) な人々など、良く知られた概念が多数含まれる。

LGBT の概念

LGBT という言葉や概念については、様々な意見があるが、近年、特に2006年7月29日の当時国際連合人権高等弁務官であったルイーズ・アルブールが指導的役割を果たしたモントリオール宣言 (Declaration of Montreal) 以降、国際連合を始めとした国際機関の性的指向や性自認にまつわる人権問題を扱う公文書においてもこの言葉は用いられている。性的指向の問題である LGB(同性愛、両性愛)と性自認の問題である T(トランスジェンダー)は本来全く別の問題であるが、これら一連の公文書においては、LGBT という言葉によってそれらを混同しておらずそれぞれ区別されている。

この LGBT という概念が、モントリオール宣言やジョグジャカルタ原則を中心として国際機関において用いられるようになった理由としては、一つに、これらの当事者とりわけトランスジェンダーの数が少ないため単独で公的に人権問題として扱われにくかったことがあり、さらに同性愛、両性愛、トランスジェンダーはそれぞれ深刻な差別や殺害も含む迫害を受けてきたにも拘らず、不当な偏見やスティグマからそれらが公式に問題視されず、実態が報告されることも妨げられてきたことにおいて共通することが考えられる。

LGBTの歴史

1960年代性の革命 (sexual revolution) に至るまで、異性愛=正常とされる人々のコミュニティで使われていた軽蔑的な意味を持つ複数の用語以外に、上述したような人々やその集団を表現する為の中立的で一般に知られた用語は存在しなかった。第二次世界大戦以前には、「第三の性」(third gender) という言葉が使われていたが、大戦後、この用語は使われなくなった。これらの人々が、性における権利を主張する運動を組織して行く過程で、自分たちは如何なる存在であるかを、肯定的な形で表現するための用語が必要となった。(異性規範性=ヘテロノーマティヴィティ、en:Heteronormativity と比較)。

最初に使われた用語である同性愛 (homosexuality) は、否定的で余分な意味をあまりに強く帯びていたので、ゲイという用語に置き換えられた。レスビアンたちが自分たちのアイデンティティを錬成させて行くにつれ、ゲイとレスビアンという用語はさらに一般なものとなった。このことは間もなく、メジャーな一般社会のなかで、法的に正当な集団範疇としての承認を求めていたバイセクシュアルとトランスジェンダーの人々によって踏襲された。しかし、ストーンウォールの反乱 (Stonewall Rebellion) の開始による初期の多幸感が薄れていった後、1970年代後期と1980年代初期には、感覚的な受け取りにおける変化が始まり、ゲイの男性とレスビアンの女性の中のある人たちは、バイセクシュアルやトランスジェンダーの人々の受け入れを拒否し、彼らに対する蔑視を表明した。

彼らは、トランスセクシュアルの人々を、ステレオタイプを演じているとして糾弾した。また、単にカミングアウトすることが恐ろしいだけで、実際のところはゲイの男性またはレスビアンの女性であるところのバイセクシュアルの人々をも、この故に糾弾した。1990年代に至るまで、性の多様性の運動のなかで、人々が「ゲイ、レスビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーの人々」を、それぞれに同等な尊厳を持っている者として語るのは、いまだ通常のことになっていなかった。

1990年代半ば以降、LGBT はますます一般的な用語となり概念となった。この言葉は北アメリカ、そしてヨーロッパにおいては、メインストリームとなり、大多数のゲイ、レスビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーのコミュニティ・センター、およびほとんどの英語圏の LGBT プレスが、この用語を採択している。とはいえ、今日においても、この用語を使用する人々あるいはグループが、名目主義的な形で、この言葉を使っているのではないかという疑問がしばしば生じる。実際のところは、この用語のもと、レスビアンとゲイの問題について関わっている場合があり、あるいは、ゲイの男性の問題をこの用語で示していることもありえる。

名目主義的とは、LGBT を標榜しつつも、実質的には、トランスジェンダーの人々は無視して、上に述べているように、同性愛者のコミュニティやその権利主張だけが問題とされているに過ぎないケースがあるからである。

レインボー・フラッグは LGBT の象徴とされるが、これは元来ゲイの尊厳 (gay pride) を象徴する旗として、1970年代より使用されてきたものである。これに対し、トランスジェンダーの尊厳の旗もデザインされて2000年に使用された他、バイセクシュアルの尊厳の旗も別途デザインされている。

ヴァリエーション

LGBT は頭字語であるが、これ以外に英語圏において、様々な、類似した性的多様性の集団を表現する頭字語がある。以下は概略である。

  • LGB - レスビアン、ゲイ、バイセクシュアルのイニシャル語で、三つの性的指向集団。
  • T - トランスジェンダー(TG)のことで、これと、LGB が組み合わさって、LGBT となる。
  • LGBTQ - LGBT に Q が加わったもので、この Q は、クィア (queer) を意味している場合と、クエスチョニング(questioning; セクシュアリティのアイデンティティについて未確定の人)を意味している場合がある。
  • LGBTT - LGBT に今一つの T が加わる。この T はトランスセクシュアル (TS) の場合が一般。
  • LGBTTT - 上の LGBTT にさらに T が加わる。この T は、二つの精神を持った者 (two-spirit) の頭文字である。
  • LGBTI - LGBT に I が加わる。これはインターセックス (intersex) の頭文字である。
  • LGBTA - LGBT に A が加わる。これは無性愛 (asexual) のイニシャルである。別のイニシャルの場合もある。

これらの頭文字の組み合わせで、複雑なコミュニティを表す頭字語ができるが、"LGBTTTIQQA" がもっとも多彩な集団になるが、このようなコミュニティは稀で存在しないとも言える。

さらに、別のパターンの頭字語も存在する。

  • SGL - 同性愛コミュニティを意味する。アフリカ系アメリカ人のあいだで、LGBT を白人優位コミュニティの言葉として捉えて使用される。(same gender loving のイニシャル)。
  • LUG, GUG, BUG - 主として若い女性が使用する滑稽語である。レスビアン (L)、ゲイ (G)、バイセクシュアル (B) の頭文字に、until graduation(卒業まで)の頭字語 (UG) を加えて作られている。大学時代に機会的同性愛、両性愛を経験した者を指す(en:lesbian until graduation 参照)。

問題と議論

LGBT という用語については議論が存在する。例えば、トランスジェンダーやトランスセクシュアルの或る人たちは、この用語を好まない。自分たちがトランスであることの根拠あるいは原因は、LGB の人々のケースとは異なると信じるからである。彼らはまた、ある団体が存在し、団体の行う活動内容が実際のところ、トランスである人々を念頭したものとは考えられない場合、団体の名称のイニシャル語あるいは頭字語として、T を加えることに対し異議を唱える(当然であるとも言える)。反対のことも言えるのであり、LGB の人々は、類似した、または同じ理由から T を好まない。

多数の人々がまた、性的指向とジェンダー・アイデンティティ(gender identity; 性自認とほぼ似た概念)のあいだに明瞭な線引きが必要だと信じている。GLB(ゲイ、レスビアン、バイセクシュアル)は性的指向に関係するのに対し、TTI(トランスジェンダー、トランスセクシュアル、インターセックス)はジェンダー・アイデンティティに関係するからである。

同様に、インターセックスの或る人たちは、LGBT グループに含まれることを望み、LGBTI という頭字語を好む。しかしインターセックスの人々でも、他の人たちは、自分たちは LGBT コミュニティの一部ではなく、この用語にむしろ含めるべきでないと主張する。

上述の逆の状況が、レスビアンとゲイにおける分離主義の信念に明瞭に見て取れる(似た言葉に、レスビアン分離主義 Lesbian Separatism があるが、これは男性とは無関係に、女性だけのコミュニティを形成しようとするフェミニズムの形態である)。この立場では、レスビアンおよびゲイである者は、通常は LGBTQ の共同体圏に含まれている他のグループとは区別し、また分離して、彼らのコミュニティを形成する(あるいは、形成せねばならない)という考えを持つ(LGBTQ の Q は、クィア queer の頭文字である)。この種類のグループは、一方で、社会運動と呼べるほどの十分な人数や組織には必ずしも見えないが、LGBT コミュニティのほとんどの場面において、非常に目立ち、しばしば声高にその意見を主張し、積極的な要素集団としてのあり方に固執する。この方向性は、とりわけ、イギリスの政治的かつ宣伝的団体に顕著である。この見解に立つ人々はまた、非「単性愛 (monosexual)」的な性的指向およびトランスセクシュアルの存在またはその平等性権利を、通常否定する。この立場は、社会一般のバイフォビア (biphobia) およびトランスフォビア (transphobia) へと繋がっていく可能性を持つ。

モノセクシュアルとは、異性愛または同性愛のことで、性的指向の対象が単一であることで、それに対し、両性愛・トランスジェンダーなどは非モノセクシュアルとなる。また、バイフォビアとは、両性愛者(バイセクシュアル)に対する嫌悪感などで、トランスフォビアは、トランスセクシュアルやトランスジェンダーの人々に対する様々な形態での嫌悪感や拒絶である。

多くの人々が、現在流布している LGBT 等のイニシャル語や頭字語、あるいは略語に代わる、一般的で包括的な用語を探してきた。クィアやレインボー(虹)などの言葉が、包括的用語として提案されたが、一般的に広く採択されなかった。クィアは、この言葉が嘲りや侮辱の意味で使われた記憶を有する年長の人々にとっては、多くの否定的な暗示的含意を持っており、また現在でもこの用語は、そういう意味を持って使用されている。多数の若い人々もまた、クィアが LGBT に較べ、政治的により感情的な論争を誘発する言葉であることを理解している。レインボーは、ヒッピーニューエイジ運動、あるいは政治運動、例えばジェシー・ジャクソン (Jesse Jackson) の虹の連合 (Rainbow Coalition) などを想起させる含意を持っている。

その他のゲイの人々もまた、文字表現としての用語が、過剰に政治的正義の意味合いを帯びて一般に受け取られることを望んでいない。また、多様な性的傾向を持つ人々のグループを、一つのグレイ・ゾーン状態の言葉でカテゴライズする試みに対し肯定的ではない。

さらに、LGBT コミュニティあるいは LGB コミュニティ自体に反対の立場を持つ、レスビアン、ゲイ、バイセクシュアルの人々も存在する。彼らはまた、通常 LGBT コミュニティとセットになっており、ゲイの尊厳 (gay pride) パレードやイヴェントを含む、政治的および社会的連帯、そして可視性と人権のためのキャンペーン(LGBT の権利、en:LGBT rights 参照)にも反対である。これらの人々のなかには、非異性愛性的指向の人々をグループとして一括して纏めることに反対の意見を持つ者もある。何故なら、このように纏めることで、ゲイ / レスビアン / バイセクシュアルであることが、他の人々とは何かの欠陥において異質であるという神話を永続させ温存させる効果を持つと信じるからである。ゲイ / レスビアン / バイセクシュアルの人々の内部におけるこのような分派的な人々の存在は、他の LGBT の人々と比較して、しばしばまったく目立たず、気づかれない。このような見解の人々は、同性の人への性的関心は別として、一般の人々のなかに溶け込み、彼らの性的指向について、ほとんど、または何の外見的・社会的な指標性も表さないためである。

このような分派的な人々の存在は、多数派である異性愛の人々から識別することが困難である。そのため、一般的には、ゲイ / レスビアン / バイセクシュアルの人々は、すべて、LGBT 解放運動や、社会における LGBT の人々の可視性(カミングアウトの公然性)などを、多数派とは異なる形で自己の人生を生きる権利も含めて、支持しているのだと(臆断的に)考えられている。しかし、これは正確な事実ではない。

  • 可視性 (visibility) とは、19世紀より20世紀にあって、欧米において、同性愛や両性愛、トランスジェンダーの人々などは、精神障害であり、病であって正常な存在ではないとされ、社会の表からは存在が隠蔽されて来たことによる。隠蔽から脱して、その存在が公然となり、誰の目にも存在が見えるようになることが「可視性」である。
  • また、欧米のソドミー法などの規範を旧植民地の支配者たちは、20世紀半ばの雪崩れ的な独立後、逆に利用して、自国内の反体制勢力や、性的多様性を持つ人々を弾圧し投獄・処刑する根拠ともしている。このように、南の世界・開発途上国にあっては、性の多様性の周縁化や隠蔽が事実上、現在も進行している。これに対しても、可視性という形で、アムネスティ・インターナショナルなどは、迫害や弾圧の実態の把握に努めている。

LGBTと性的マイノリティ

LGBT あるいは LGBTQ に類似した日本語の言葉に性的マイノリティあるいは性的少数者がある。この用語は、説明において、LGBT の同義語であるとされる場合があり、また、LGBT よりは定義範囲の広い用語であるともされる。英語の Sexual minority という言葉は、1970年代後期から1980年代初期にかけて、民族的マイノリティ (ethinc minority) との類縁から造語されたとされ、これを日本語に訳して「性的少数者」などの用語が作られたとされる。

LGBT と性的マイノリティは明らかに意味が異なり、そのもっとも大きな違いは、LGBT は、LGBT のコミュニティに属する者が自分たちの集団を呼称する名称として、この頭字語を選んだことである。したがって、LGBT は、例外はあるが、LGBT の人々が自分たち自身で自称している呼び名である。それに対し、性的マイノリティ / 性的少数者は、少なくとも第三者的な立場から、性的な人格特徴において「社会でのマイノリティ」となる者という意味で定義された言葉で、LGBT の人々自身は、この呼び方や用語をむしろ好まないということもある。

一つに、マイノリティであるということ自体が社会の成員としての尊厳と矛盾するのであり、少数者と呼ぶ限りにおいて、差別や偏見を認めてしまっているということにもなるのである。いま一つに、LGBT コミュニティ内部でも、議論があるが、誰を含めるか含めないかで多様な見解がある。性的マイノリティには、フェティシストBDSM 愛好者なども含まれるとする定義もあり、しかし、どれだけ譲っても、LGBT のコミュニティの概念に、このような性的嗜好の人々を加えるのは明らかにおかしいということがある。また、LGBT の人々は、このような混同を当然ながら認めない(en:Sexual minority 参照)。

参考書籍

  • ヴァネッサ・ベアード 『性的マイノリティの基礎知識』 作品社、2005年 ISBN 4-86182-012-X
  • 藤井ひろみ・桂木祥子・はたちさこ・筒井真樹子 編著 『医療・看護スタッフのためのLGBTIサポートブック』 メディカ出版、2007年 ISBN 4-8404-2093-9

関連項目

外部リンク

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